続々11月10日、私たちの列車予約はWLだった。WLというのはウェイトリステッドというステータスを表し、満席でも予約を入れてとりあえずリストに名を連ねるいわゆるキャンセル待ち。若い番号なら出発までにconfirmed(予約確定)に繰り上がる可能性が高い。
インドの列車はキャンセル料が安いため多くの変更とキャンセルが発生する。過去、予約時にWL16でも当日confirmedに繰り上がった実績がある。万が一、confirmedにならなかった場合は駅窓口で返金してもらえる。(Clear Trip経由手配はクレカに自動的に返金される)
予約時の私たちはWL/21と22で前には20人が待っていた。今日確認するとWL/10になっていた。
Shiv Ganga Exp Train# 12559 AC 2 Tier (Rs1135)
19:05発 バラナシJn駅
07:40着 ニューデリー駅
既に入線していた列車の車両には見事confirmedを勝ち取った者の氏名と年齢と座席番号が張り出されている。個人情報は丸見えである。
私たちの氏名はなかった。でも乗ってしまえば、空席があったりしてなんとかなる!
だってインドだもーん
勢いで飛び乗り、とりあえず車両連結部に荷物を置いて空席がないか確認する。だが、3時間後に到着する次の駅で切符確認を行う車掌が乗ってくるまでは動けない。少し焦り始めた私たちを見た乗客のひとりが声をかける。
「君たち、どうしたの?」
私たちはこの男、アレックス(仮名・推定45歳)に状況を説明すると
「僕が車掌に話をつけてあげるから安心しなさい。とりあえずこんな車両の連結部にレディが座るなんて許せない!僕がなんとかしよう!」
そして用意してくれたのがここ↓
列車内で働くスタッフの休憩所
STAFF ONLY アッサリ解禁!
おそらくアレックスは彼らに賄賂を渡してここを譲らせたのだろう。そして、
「チャイは飲む?コーヒーがいい?お腹が空いてるだろう。食事をいただこう。寒くないかい?・・・なにも心配いらない。僕がついてるから。」
と言う。
インドはまだまだ男社会で女性の地位は低く、男性は家族以外の女性に対して免疫がなくあまり気を遣えない。なのにうさんくさいほど完璧な気遣いができるアレックス。
彼はヒンドゥー語と英語とイタリア語をあやつるインドとイタリアのハーフで、イタリアの要人やVIPのエスコートを行うエージェント業をしているとのことだった。なるほどインド人とイタリア人のMIXなら、
最強の女好きだな
途中、列車が30分止まった。信号が変わるまでは発車しないから、と言うアレックスと私、イギリス人バックパッカーやインド人たちで線路に降りようということになった。どうやって外に出るのさ?と思ったのも束の間、
ゴゴゴゴゴ・・・
扉は内側から手動で開いたw
オイコラ!安全軽視しすぎだろ!
線路に降りて見えた光景。だたっぴろい真っ暗な荒野から見上げた月は最高に綺麗だった。私はなんとかなるだろう、アレックスもいるし、と思っていた。
しかし3時間後に乗り込んできた車掌に事情を話すと君たちだけ特別扱いはできない、という姿勢は崩さなかった。アレックスと既に賄賂を受け取ったであろうスタッフが加勢し、なんとか席を用意しろ!せめて休憩所にいさせてくれ!と懇願した。が、
最終的に車掌とアレックスは
大喧嘩をはじめたwww
「女性に、しかも異国から来たツーリストに、こんな不親切は許せない。お前は女性を大事にすることを知らないな!見ず知らずの女性によくしてやれないお前は自分の妻や母親にだってよくしていないはずだ!」
女性上位主義のアレックスが声を荒げたが、本来はインドだからなんとかなると乗車した私たちの責任だった。
そして私たちは追い出された。こっちへ来い!という車掌に言われるがまま3AクラスとSleeperクラス(平均的なインド人が乗るクラス)を通り越しさらに最下層へ・・・。
ここはGENと表記されるクラスかしら。予約なしで当日強引に乗るスシ詰めクラス。私たちに与えられたのは、スシ詰め客に与えられる車両内ではなく、やはり車両連結部だった。
周囲には私たちと似たような状況であぶれたインド人男性たち。彼らは突然やってきた女たちに激しい色目を浴びせかけた。私はさながらムスリムの女性のように持っていたストールで顔を覆った。
目の前はトイレ
臭い 汚い 狭い 寒い
そして
いつ何をされてもおかしくない空気
私、だいじょうぶなのぉ?
・・・アレックスは2Aクラスのconfirmedで今夜のベッドが確保されていた。しかし、
「この状況でレディを放っておけない!そんなことをしたらきっと僕は僕を許せない!君を危ない目には遭わせない!僕が君を護る!!!!!」
と半分ヒーロー気取りで一晩一緒ににいてくれた(笑)まぁ危険漂うこの状況ではなんとお礼を言ったらいいかわからなかったが。
すきま風の入る連結部で寒さに震えながら越した一晩。固く冷たい連結部の床には隙間があり、座ったまま眠ってしまいそうになる私に、「落ちるなよ?」と声をかけるアレックス。
寝たら落ちる?ってことは死ぬ?・・・と思っても、人間、本当に疲労困憊しているときは寝てしまうらしい。起きてから確認すると人間が落ちてしまうほどの隙間(穴)ではなかったがね。
どんな最悪な経験も無駄にはならない、とは聞くがしなくてもいい経験もあって、それがこの一夜だった。だが無駄にしないためにはこのネタを教訓にインドでなんとかならないときもあると知っていただきたい。きっとこの国を旅する大半のバックパッカーはなんとかなると思っているから。
夜が明ける。
もうすぐデリーだ。
om shanti,